導入
「相続開始前の贈与財産の加算」は、亡くなる前の生前贈与を相続税の計算に足し戻す仕組みです。
👉️2023年の税制改正により、加算期間が3年から7年に延長され、延長された4年間については受贈者ごとの合計100万円まで加算しない緩和が導入されました。
💡本記事では、具体例と注意点を交えながら整理します。
背景・問題提起
相続直前だけ贈与を増やすと課税の公平が損なわれるため、直近3年は全額加算、それより前の4年は受贈者ごとに100万円を差し引く二層構造になりました。ただし、『期間の境目は贈与日で判断し、控除は人ごとに適用すること』は、取り違えやすい点です。実務でも学習でも、まず期間を切り分け、次に人別に集計し、計算することで誤解を防ぎます。
本論
🧭 全体像は「お財布の二つのポケット」で考えると分かりやすいです
相続開始日から7年前まで時間をさかのぼります。⏰
- 「直近3年」はお財布の赤いポケットに入っていて、中身は全額加算です。
- その前の「4年間」は青いポケットに入っており、ここからは合計100万円まで免除されます。
例えば、2040年6月1日に相続が始まったとします。この場合、対象期間は2033年6月2日から2040年6月1日までです。
ただし、延長された4年間が適用されるのは2024年1月1日以後の贈与です。したがって…
- 2033年6月2日〜2037年6月1日までの贈与 → 青いポケットに入り、合計から100万円を差し引ける。
- 2037年6月2日以後の贈与 → 赤いポケットに入り、全額加算の対象。
✅ つまり、「赤=全額」「青=100万円控除あり」と整理して考えると、混乱せずに進められます。
🧮 100万円控除は「人ごと」に判断します
100万円の控除は年ごとではなく、延長された4年間の合計から差し引きます。そして判定は必ず受贈者ごとに行います。👤
例:
- 長女A → 延長4年間で150万円を受け取り → 150万円−100万円=50万円を加算
- 長男B → 延長4年間で40万円を受け取り → 40万円−100万円=0円(マイナスにはならないため0円)
❌ 直近3年間にはこの控除は使えず、必ず全額加算されます。
よくある誤解として「家族全体で100万円控除できる」と思いがちですが、これは誤りです。必ず人ごとに計算する必要があります。
📅 適用の境目は「贈与日」です
延長された4年間に入るかどうかは、相続開始日ではなく贈与日で決まります。📌
2023年以前の贈与は、たとえ相続開始から4〜7年前にあっても、従来どおり「3年以内」のものだけが加算対象となります。
例:
- 2023年12月に200万円 → 延長の対象外
- 2024年3月に300万円 → 延長7年ルールで判定
- 2036年4月に100万円 → 延長7年ルールで判定
延長4年分の合計が300万円なら、300万円−100万円=200万円が加算されます。
直近3年に入る分は別に全額加算です。
💡 迷ったときは、まず「その贈与が2024年1月1日以後かどうか」を確認するのが大切です。
🔄 暦年課税と相続時精算課税を混同しないことが重要です
今回の7年ルールは暦年課税に対する見直しです。一方、相続時精算課税は仕組みが別であり、死亡時に原則として贈与財産をそのまま相続財産に通算します。🔍
例:
- 2025年に相続時精算課税で1,500万円を受け取り → 制度のルールで死亡時に通算
- 2026年に暦年課税で110万円を受け取り → 7年ルールで判定
❌ よくある誤解は「相続時精算課税にも100万円控除がある」と思うことですが、これは間違いです。
相続時精算課税には100万円控除はなく、2024年以後に新設された110万円の基礎控除も別の仕組みです。制度は箱を分けて管理することが必要です。
📝 実務では「人別台帳」を作ることが最大の防止策です
加算の計算は複雑に見えますが、受贈者ごとに台帳を作ればシンプルになります。📒
手順:
- 贈与日、金額、贈与者、制度区分(暦年か相続時精算課税か)、証拠書類の所在を記録する
- 2024年1月1日を境に仕切りを入れる
- 直近3年分は全額加算する
- その前の4年間の合計から100万円を引く
- 最後にそれらを合算して、その人の加算額とする
さらに注意すべき点は以下の通りです。
- 名義預金かどうか(通帳や印鑑を誰が管理していたか、資金の使い方)を確認する
- 教育資金・結婚子育て資金などの非課税制度を利用している場合は、制度要件や証憑の確認を行う
✅ こうした整理をしておけば、「人別」「日付」「制度」の3点を押さえるだけで、計算を正しく行うことができます。
具体的な計算を確認してみましょう 📝
前提
- 加算対象期間:2024/1/1 ~ 相続直前(2028/6/1)
- 2023/12/20の贈与(長男2,000・二男3,000)は対象外 ❌
- 2024/3/20(長男3,000・二男2,000)、2025/4/20(長男2,000・二男1,500)は延長4年分に該当 → 控除1,000千円を差し引く(各人の延長4年合計から1,000千円控除)。
- 2026/10/10(長男1,500・二男2,000)、2027/8/10(長男2,000・二男3,000)は直近3年分として全額加算。
手順(人別に計算します)
- 延長4年分の合計を出します。
- 延長4年分から1,000千円を控除します(各人で判定)。
- 直近3年分を合計します(全額加算)。
- 延長4年分(控除後)+直近3年分=各人の加算額です。
長男の加算額
- 延長4年分:3,000+2,000 − 1,000 = 4,000(千円)
- 直近3年分:1,500+2,000 = 3,500(千円)
- 合計:7,500(千円)
二男の加算額
- 延長4年分:2,000+1,500 − 1,000 = 2,500(千円)
- 直近3年分:2,000+3,000 = 5,000(千円)
- 合計:7,500(千円)
合計(長男+二男)= 15,000 千円 ✅
実務・生活への応用
今日から試せるチェックリスト
- 受贈者ごとの贈与台帳を作成する(贈与日・金額・贈与者・制度区分・証拠の所在)。
- 台帳に2024/1/1の境界線を引き、延長4年と直近3年を仕分けする。
- 延長4年分から人ごとに100万円を控除し、直近3年分を全額加算して試算する。
まとめ
加算は直近3年は全額、それより前の4年は受贈者ごとに100万円控除の二層構造です。延長の対象は2024年以後の贈与で、判定は人別に行います。台帳で手順を標準化すれば、実務も学習も迷いません。
理解を深めるために…
台帳を作り、延長4年(−100万円)→直近3年(全額)→合算の順で一度シミュレーションしてみてください。理解が定着します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資判断や税務処理を保証するものではありません。
実際の手続きや判断にあたっては、必ず最新の法令や専門家のアドバイスをご確認ください。
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